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「瞳の中の大河」 沢村凛 感想

やばい……この人のファンタジー面白すぎる。


「黄金の王 白銀の王」が王の話なら、この作品は「英雄」の話だろう。

この話の主人公アマヨクは初めはただの愚直な青年だが、やがて国を変えるほどの英雄へと成長していく。
アマヨクのキャラクターがいいんだよなあ。厳しい現実を次々目の当たりにした上でも、ただひたすらに理想を追い続ける。
ちょっと違うかもしれないけどジャン・バルジャンを思い出した。

「カーミラ、この世に理想どおりのものは、何一つない。軍も、政府も、国家も、小さな村も、おまえたちの組織も、必ずどこかに歪みがあり、すべきことがそのとおりに進まず、してはならないことをする者がいる。悪意をもって間違った方向に導く者がいて、善意がありながら失策を犯す者がいる。この世にあるものはすべてそうだ。だから、信じられるのは幻の、あるべき姿――理想郷だけだ」

理想は現実にはないから理想なのだ。そこに本物の理想などなく、人にできるのは偽物を本物たらしめんと一歩ずつでも進み続けることだけ。
理想を語れなくなったら人間の進化はそこで止まる。
だからアマヨクは、どれだけ身を削っても、裏切られても歩みを止めようとしない。

「現実が理想どおりでないからといって、拒否し、打ち毀そうとするのは愚かな行為だ。現実を受けいれながら、少しずつでも理想に近づけることこそが人の役目なのだ」

だよね。しかし、ただ真面目で潔癖なだけならこの台詞は出ないんだよなー。
アマヨクは求道者染みているところがあるが、休暇では女を買ったり目的のためには平気で嘘を言ったり時には裏切ったりもする。このナチュラルに清濁併せ呑んだ感じ、生まれが生まれなら革命者、野族側に立ってたんじゃないかな。

最終的にアマヨクは内戦を終わらせるという目的を達成するのだが、彼の個人的な欲求は果たされていたのだろうか?
息子とは仲直りし、結婚など露ほども考えていないながらも愛する女もできた。父親とのやり取りの解釈は厄介なんだよなー。あの一言で、彼は父親からの愛を実感できていたのだろうか?
一つだけ、救われないと感じたのが彼の事実上の保護者である南域将軍との関係である。

彼ら二人の複雑な関係性が、もう一つの見所と言えるかもしれない。
南域将軍がアマヨクを擁立した最大の理由は彼に愛する妹の幻影を見ていたからである。妹への愛が、アマヨクの娘に移った時、政治的判断もあるだろうが彼をあっさりと見捨ててしまった。
さて、あくまで第三者であるオーマの見立てではあるが、南域将軍が次々と戦果を挙げ、英雄となったアマヨクに理想の軍人像を見ていたらしいことが示唆されている。
アマヨクが誰よりも理想の貴族であり、尊敬する保護者である南域将軍を敬愛していたことは明らかだが、実は互いが互いに自分にはないものを見ていたというのだ。
だが、互いに見ていた互いの姿は理想で塗り固められた偽物だった。

南域将軍は、本当にアマヨクを個人として愛してはいなかったのか。その真実は分からず、アマヨクがそれを知ることもついになかった。
一番欲しかったはずのものをアマヨクはついに手に入れられなかったのだと思う。

どれだけ近くにいても、いや、近くにいるからこそ正しく認識できない。人は過ちを犯すし、汚いこともする、誰にでもそんな弱さはある。好意的な相手ほど、無意識にそういった面から目を背けているのではないか。


この人の作品って、壮大な物語を展開しながらも、主題はむしろミクロな人間関係の描写にあるんじゃないかと思う。

完全に注目作家の一人となった。この次彼女がどんな物語を紡ぐのか、今から楽しみでしかたがないなー。


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