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小説

「バルタザールの遍歴」 佐藤亜紀 感想

「マクベスだろうとロミオだろうと、自業自得でない悲劇などありえない。全く自分の所為ではない不幸が次々に襲い掛かってくる芝居があったら、抱腹絶倒の大喜劇に違いない」

 
 最初の一章を読んで直感しましたが、この作品を完璧に楽しむためにはWW1後のウィーン周辺の情勢と、既に時代の変わり目にある中で凋落していく貴族たちの実情についてある程度の知識がないとダメですね。もちろんそれがないと楽しめない、ということはありませんが、この物語構造とか主人公の設定が当時の歴史的な事情にどう関連しているのか、という点での深読みが出来ないかなー、と。つまりは知識が足りない!
 昔ジェイン・オースティンを読んだ時にも感じたんだけど、歴史や階層の差による価値観の断絶があると、それはそれでギャップを楽しむことはできるんだけど感情移入がすごく困難になるんですよね。
 今回私はその辺にはそうそうに見切りを付けたんで、ある意味では気軽に楽しめました。

 ナチスの足音が近付くウィーンのとある公爵家。そこで生まれたメルヒオールという男性は、一つの身体に二人の人格を有していた。メルヒオールとバルタザール。この奇妙な双子が放蕩と享楽と堕落の限りを尽くし、あらゆるものを剥ぎ取られていくという筋で物語は進む。しかしこの作品はその顛末を特別悲劇として扱うようなことはせず、あくまでエスプリをスパイスに至極ユーモラスに二人の道筋をたどって行きます。

 外面には見えないがゆえ「双子」であるという自分達のアイデンティティを認めてもらえず、家族、家、財産、愛する人までも奪われていて、半分くらい自業自得とは言え散々な目に会っているんですよね。それで二人、あるいは片方が絶望し、酒や享楽に溺れる様を描いていて、よくよく考えるとそれってすごく重いんですけれど読んでる間はあまりそれを感じないんですよね。作品全体の雰囲気が飄々としている。
 それは多分、彼らがあらゆる人生体験を二人で分け合っているからなんですね。それまでの人生を(私的にはピングドラムと言い換えてしまってもいいんですけど)分かち合う「誰か」をメルヒオールとバルタザールの二人は生まれながらに獲得しているわけです。だからどこまで堕ちても最後の一線を越えることはない。終盤では二人が別々の陣営に分かたれて、これが物語的にも彼らの精神的にも最大のピンチとして位置付けられているわけですが、それでも磁石で引かれ合うように元の器に戻ってくることになります。
 全てを失ってまさに何者でもなくなったのだけど、一つの身体で繋がっている絶対の存在が付いているから、彼らは激動の時代の中でギリギリの際に立たされても自分を見失わずに、最終的にまだ見ぬ世界へ歩き出すことができたのだと思います。そしてそれが何を指し示しているのかが分からない(笑)

 そして、もう一つ面白いと思ったのがこの人のキャラクターの捉え方と描き方です。
 ユリイカという雑誌で「鋼の錬金術師」の荒川弘特集が組まれた号があるんですけど、そこに佐藤亜紀さんも寄稿してるんです。その記事で、彼女はハガレンのキャラの「流動性」に注目していて、物語上で登場人物が場面を変えるごとに同盟を再編成していて、それが作中のキャラの習性となっているという点を指摘してそういう表現をされています。
 これって、この作品の双子主人公にも通ずるものがあるなぁと。作中でメルヒオールとバルタザールは色々な場所を、それこそ流浪と言っていいくらいに歩き回るのだけれど、そこで出会う人々との関係性っていうのがすごく流動的だと思います。特に典型的な「嫌なヤツ」として描かれた……名前忘れたけどナチの軍人でさえ、いつの間にか呉越同舟の同盟関係を結んでいたりします。この好悪関わらず状況によって変遷する人との関わりあい、というのは物語を重層的に描くのにすごく役立ってるんじゃないかと思います。
 でも、ユリイカの記事で佐藤さんはこうした「何処のポジションにおいても機能する立体的な人間描写」を現代文学ではほぼ無効化されている、と表現しているんですよね。そこがこの作品を読んでもよく理解できなかった。この点がちょっと気になっているので、もう何冊か同作者の作品を読んでみたいと思います。

 
 あともう少し関係ない話を。
 これは図書館で借りて読んだんだけど、返却期間があると「読まなきゃ」という意識が働いて逆にすごい読み辛く感じるんですよ。以前はそんなことなかったんだけど、なんだろう、急かされると天邪鬼が発動して反発しちゃうのかな? 単純に自分に余裕がなくなってるのかも、図書館は貧乏人にとっては救世主的存在なのでこの傾向は直したいなー。手元に置きたい作品があったらその時はあらためて買えばいいし。


 
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