アニメを中心に、漫画や映画、小説など創作物の感想を載せるブログです。

その他

たまこまーけっと 感想

 時間も空間も越えて広がる日常。

 
 緻密な芝居で登場人物たちの感情の表層を切り取ってきたこの作品。作中で描かれるのはその人物が抱えてきた想いの一端だけで、我々視聴者は直接は語られることのないそれを作中での些細な言動から窺い知るだけだ。しかしだからこそ物語外の語られない部分に、過去の出来事も含めて彼らが歩んできた人生を感じ取ることができる。

 舞台となるのは「うさぎ山商店街」。商店街で育ったことがないので全くの嘘とは言えないが、よく槍玉に挙げられるようにそこは一見誰もが暖かな心を持ったユートピアのように見える。だけれどそれは住人や訪れる人の胸の内にクローズアップしないだけで、彼らは当たり前の悩みや葛藤を抱えて生きている。
 重要なのは「苦悩」が全く存在しないのではなく、あくまでそれを言外の要素として、それによって発揮される登場人物たちの心の動きを細かな表情や仕草、示唆的なセリフを通して描いていることだ。
 ともすればファンタジーにも思える商店街の空間だが、一方で室内の様相や小物から感じる生活臭と人生の足跡、朝から夜までコンスタントに挟まれる日常の描写からはそこに生きる人が確かにいるというリアリティを感じさせる。
 多分このバランスが京アニなんでしょうね。キャラクターに関しても、明らかに浮世離れしたたまこやかんな、チョイと言った所謂「美少女キャラ」がいる。その一方で、みどりや史織、あんこなどのリアルとは言わないまでもちゃんとした「女の子」として描写されているキャラがいて、アニメーションとして理想化された世界は描いているけれど現実を見失っているわけではないと感じました。

 この作品の主人公である北白川たまこ。
 彼女もまた商店街の人気者で、嫌味も屈託もない「いい娘」として徹底的に描写されてきた。しかし主人公とは言っても、各エピソードでスポットライトが当たるのはむしろ彼女の周りの脇役たちで、たまこは作品の軸として中心にはいるのだけど彼女の心の内はほとんど描かれることはなかった。
 むしろ、彼女の言動や関わりを通して周囲の人間の心の動きを描くような作劇となっており、たまこは「うさぎ山商店街」と共にこの作品の舞台装置として配置されたキャラクターなんじゃないかと思ってました。
 そう思ってた所にあの11話ですよ。あれは完全にやられました、そうきたかと。
 「たまこをずっとここに縛り付けておくわけにはいかない」
 そのセリフを言っちゃうのかと。たまこが誰よりも商店街を愛しているのは見てて伝わってくるし、町内会の面子も皆それを分かってると思うんですよ。
 でもそれは、彼女にとってあの商店街が世界の全てになっているからなんですね。外にだってずっと世界は広がっているわけで、それを知らずに商店街で一生を終えるのが本当にたまこにとって幸せなのか。どちらが正解というわけではないけれど、少なくともそれが当たり前と思ってはいけないのだと指摘されました。
 デラやチョイ、王子の住む「南の島」というモチーフはそれこそ典型的な外界のイメージで、突如見知らぬ国のお妃になるなんてのは現実にはあり得ないけど、商店街を出て行くという選択肢は十分考えられる。今思えば、さゆりさんの嫁入りもこのための布石だったのかも。

 夜空の下で語り合うみどり、かんな、史織のシーンがまた素晴らしい。そこには無限の星空が広がっていて、彼女たちにとってもまた世界が広がったということが表現されていた。かんなの「宇宙の入り口に立った気分」というのはまさにそういうことでしょうね。
 そしてすっかり嫁入りをすること前提で盛り上がる周囲の人間に対し、たまこは誰にも聞かれないよう気を遣いながらも初めて「憤り」を見せた。それは普段彼女が誰にも見せない本心の一部であり、彼女もまた理解されないことへの苦悩を抱えていることが窺える。ここにきて初めてたまこという少女にスポットが当たり、同時に商店街を居場所とする彼女の人生の是非が問われるのは流れとしては順当ですね。

 そして最終話。たまこが語る商店街の思い出には思わず涙が……。
 彼女が商店街を愛する理由。母親が死んで、そこでたまこが何を思ったかは描かれないけれど、皆が彼女を支えてくれた。たまこはずっとそこで生きてきて、商店街は彼女の人生そのもの。それを証明するのがあのポイントカードであり、メダルなのですね。だからこそ、たまこがメダルをチョイちゃんにあげようとしたシーンが唯一不満かなぁ。それこそお餅でよかったろうに、あれはしてほしくなかった。まあもうちょっと考えれば納得できる理由が思い付くかもしれないけど。

 ※追記
 
 思い付きました。
 たまこにとってあのメダルが商店街を象徴するものだからこそ、家族同然に思っているチョイちゃんに「離れてても一緒」という願いを込めてあげようとしたんじゃないかな。でも、それはチョイちゃんが言う様に「たまこにとっての大事」でしかない。たまこは自分基準で考えてメダルをあげようとしたけど、チョイちゃんにとってそれはただのメダル以外の何物でもないから、受け取らなかったということかなと。
 あー、すっきりした。

 たまこは自分が外の世界を知らないことは承知の上で、それでも商店街で生きていくことを決めた。でも、デラたちに出会ったことで既に彼女の世界は広がってるんだよね。お妃騒動で外に出ることも少しは考えたはずだし。だから、閉じた世界で完結する話にはなっていない。
 自分の居場所、自分の世界を誰しもが生きていく。その中には時に変わるものもあり、変わらないものもある。それが人生。そしてまた年は暮れゆく。うん、素晴らしいラストだった。

 個人的に今期新作ではダントツの作品。デラは最高のキャラだったし、みどりや史織が可愛かった。
 何より日常の舞台を「学園」から「商店街」にまで拡張し、そして「今、ここ」という従来の時間軸から「過去から未来まで」という人生にまで昇華させて描こうとする作劇にシビレました。
 山田尚子監督の挑戦を感じる意欲作だったと思う。

 ところで最後のなんだあれ。中二病2期来るのか?


関連記事
スポンサーサイト
Comment

チョイちゃんがメダルを受け取らなかった理由は、私の見方と少し違うかなぁ。
たまこにとってどれだけ大事なものか、すぐそばで見ていたから、それは受け取れない。
たまこからは、たくさんの優しさや思い出をもらってるから、それで十分!
…なんて気持ちが、チョイちゃんにはあったんじゃないでしょうか?

正直、京アニ作品としては、私はいまいちだったんだけど…
天然でとにかくいい子、に食傷ぎみでして…

ただ、ブログ主様のような見方もあるんだなぁと感心させられました。
ありがとうございます。

No title

>名無しさん

コメントありがとうございます。

>チョイちゃんがメダルを受け取らなかった理由

いや、むしろ名無しさんので正解だと思います。
私の感想は「物語上の意味」と「キャラの心情」をごっちゃにして、変に理屈を捏ね過ぎて分かりづらくなってしまってますね(汗)
一応「物語上の意味」としては私の考えた理由で説明が付くと思ってますが、「キャラの心情」は名無しさんの考えの通りだと思います。
この説明もまた分かりづらいよなぁ(苦笑) 反省です。

>天然でとにかくいい子、に食傷ぎみでして…

それはありますね。私もキャラクターとしてのたまこはそんなに好きじゃなくて、もっぱら彼女の役割に注目してました。京アニはひたすら色んな形の日常作品に取り組んでいるので、一度ガチの恋愛劇をやって女の子のダークサイドを掘り下げてほしいかなぁ(笑)

>ただ、ブログ主様のような見方もあるんだなぁと感心させられました。

本当に見方一つで作品の評価はガラッと変わると考えているので、そう言っていただけて幸いです。全然視点の異なる他人の評価を見るのって楽しいですよね。

はじめまして

ぽんずさんの『たまこまーけっと』感想、心待ちにしていました。

「非日常」の塊だった“喋る鳥”がいつしかたまこちゃんを取り巻く日常の一員となっていく、という流れが良かったですね。
より長いスパンで(具体的に言うと2クールで)その過程を丹念に描いて欲しかった気持ちもありますが…

チョイちゃんにメダルを渡そうとするシーンのたまこちゃんの心理は自分も少し疑問を感じつつ、ギャグ描写だと割り切って考えていました(^^;)
納得が行く解釈が聞けてスッキリしました。ありがとうございます<(_ _)>

No title

>taraさん

コメント&TBありがとうございます。

>「非日常」の塊だった“喋る鳥”がいつしかたまこちゃんを取り巻く日常の一員となっていく、という流れが良かったですね。

デラは完全に日常に溶け込んでましたね。いつの間にかというよりは、最初から違和感なくそうだったような……。上手くいえないですけど、そう考えると不思議なキャラですよねー。一度そこに注目して見直してみるのも面白いかもしれませんね。

taraさんのブログ記事を読ませていただいて思ったのですが、コメディとしても中々良かった作品だったなと。爆笑することはなかったのですが、かんなの突拍子もない一言に吹き出したり、デラの扱いに結構笑ってた記憶があります。
テンポの良い演出がここでも活かされていたんだなと、改めて気付かされました。
Trackback

アニメ感想 『たまこまーけっと』最終回「今年もまた暮れてった」

これまでの話数表示に合わせるなら「最終回」ではなく「最終話」なのでは…?という野暮なツッコミはさておきw 『たまこまーけっと』最終回を観ました。 “4期連続で京都アニメ

たまこまーけっと〜第12話感想〜

「今年もまた暮れてった」 商店街に現れた王子はデラ、チョイと久々の再会を果たす。 そして、王子はたまこの家へ。 メチャ・モチマッヅイだと名前を紹介する。 王子

◎たまこまーけっと第12話今年もまた暮れて...

->メチャ:落ちていましたよチョ)王子]私も元気だぞ->言葉を話すとりがいるのですね・・・デラ!△)オチチ様とオトトサマです。タマコ様です->親切にしていただいてるそうでタマコ:...
Trackback URL
Comment form













管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

ぽんず

Author:ぽんず
私は好きにした、君らも好きにしろ

アニバタ Vol.6アニバタ Vol.9に寄稿しました。よろしくです。


このブログについて

※感想記事はネタバレがデフォです。

当ブログはリンクフリーです。お気軽にどうぞ!
現在相互リンク募集中


twitter
検索フォーム
ランキング
にほんブログ村 アニメブログ アニメ感想へ

アクセス解析
外為どっとコムの特徴
ブロとも申請フォーム
QRコード
QR

Page Top
Powered by FC2 Blog | | Template Design by スタンダード・デザインラボ