アニメを中心に、漫画や映画、小説など創作物の感想を載せるブログです。

小説

「華竜の宮」 上田早夕里 感想

 久しぶりに小説を読んだ気分。久しぶり過ぎて感想の書き方忘れた。


 陸上民と海上民、分かたれた人類がそれぞれ違う文化や価値観を育み、ウォーターワールドと化した地球を生きていく物語。

 陸上民側の主人公である青澄と、海上民側の主人公ツキソメの2人を軸に両者がどう協力していけるか、を問うストーリーかと思っていたら、中盤に差し掛かった所で衝撃の事実が発覚する。
 数十年先の未来で起こることが決まっているカタストロフ。人類が生き延びることすら難しい。正直、最初は「こんな大規模な問題持ってきちゃったら今までの物語が霞んじゃうんじゃないの?」と思ったけれど、読み進めていくと一層彼らが必死に未来を繋ごうとしている様に惹き付けられていく不思議。
 作中の人物も、どうせ全部滅びるのにこんなに必死になる意義があるのかと自問する。それでも、無駄になっても最後に笑って死ぬために正しさを求めて歩んでいく価値はあるのだと、もがき続ける青澄たち。生きる意味がどうこうじゃなくて、ただひたすらにどう生きるかを問う物語。
 パンプキンシザーズのこのセリフを思い出しました。

「やがて失うものに意味がないのなら あなたの命もまた無意味でしょう」

 決まっているカタストロフを前にして、一層浮き彫りにされる人間、いや、すべての生命の原始的なまでの輝きを描いていて素晴らしかったです。最後に人類の夢として、やはり宇宙に懸けるというのも熱いんだよなー。滅んだとしても、生きた証を。


 ミクロのドラマに目を向けると、3人目の主人公として描かれたタイフォン大尉がキーパーソンだと思いますね。彼は海上民でありながら、海上警備隊として陸上民の傘下に入っていて、けれども隷属はせず海上民を守るために戦っている。
 海上民と陸上民は、それぞれ「アシスタント知性体」「魚舟」というパートナーを有していて、データと生物という違いはあっても貴賎は設けず、どちらも人間の「最良の友」として描いているのです。
 しかしタイフォン大尉はアシスタント知性体と魚舟、両方を有していて、ひたすらに陸と海の間に挟まれる、ちょうど中間に位置づけられたキャラクターとして描かれている。彼の心はずっと海にあるし、陸側のパートナーであるアシスタント知性体「燦」に対してはわざと突き放した態度を取っているんだけど、それはそのまま陸上民に心を開けない彼の弱さを象徴している。
 そんな彼が、最終的に燦に心を開き、そして彼の魚舟である「月牙」もろとも海の底に沈んでいく末路は、それぞれを等しくこの世界に生きる「生命」として扱うこの作品のロジックを象徴するとともに、陸と海――どちらの社会にも属しきれなかった彼の生き様を表現しているように思う。しかしこの作品はそんな孤高性すらも肯定してみせる。ただひたすらに他の生命を襲い喰らう「獣舟」の在り方を海上民が尊重するのもその一貫ですね。

 陸上民と海上民が手を取り合うには、利権や差別意識、その他諸々の社会システムが阻んで思うようにはいかない。
 青澄は外交官として、「暴力」ではなく「交渉」でひたすら陸と海とのバランス調整を行い、双方に利益をもたらすことで理想的な共生関係を目指す。少なくとも作中の物語では、あくまで彼は組織の末端として働き、時に計画を揉み潰されたり妨害されたりしながら、逸脱しきらない範囲で最善手を模索しようとする。
 対するツキソメは社会システムには反抗的で、海上で緩やかなコミュニティを形成している。作中では特に管理社会的な前者と牧歌的な後者、どちらが優れているとはせず、どちらも一長一短ある当たり前の人間社会として描いていることに共感が持てますね。
 両者が手を繋ぐために、なにか最良の答があるかというとそうではなく、ただひたすらにそれぞれが他方を尊重し、誠実さを見せて行動していく以外に方法はないんですね。痛みも含めて、その過程をドラマとして描いているから明快な回答はなくても結末に納得がいく。
 青澄は特に、最後の最後で「暴力は行使しない」という禁を破り、それによって自らの外交官としての誇りをズタズタにしてしまいます。しかしそれをただの敗北とせず、より強い「言葉」として変換してカウンターをしてみせたのには彼の意地を感じましたね。
 倫理と感情と社会と理想と現実と、あらゆる要素が繋ぎ目なく合わさった濃い人間ドラマが見られて満足です。

 Twitter始めてから明らかに本を読まなくなっていたのでちょっと意識的に読書モードに切替えていきたいと思います。アニメでも漫画でも、一つのメディアばっか見てるとなんか物語を読む力が鈍る気がするんですよねー。ジャンル独特の文脈に馴れるというか。次は安部公房か熊嵐かアンナ・カレーニナかな。


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