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漫画

ローゼンメイデン 雑感 病んだ少女と黒い天使

 ヤングジャンプ本誌連載原作最新話のネタバレ有りです。果たして誰が読むのか。


 この物語の裏主人公であるローゼンメイデン第1ドール・水銀燈とそのマスター柿崎めぐの終着点について、先々週のヤンジャンを読んでからぼんやりと考えていたのだけれど、先日『叛逆の物語』を見てからピンと来たのでとりあえず何か書いておきます。やっぱ比較対象があると捗るわぁ~。


 この2人の関係性には「約束」と「誓い」の2つの核がある。
 約束とは、いつか水銀燈がめぐの命を使いきり、死へと誘うこと。
 そしてそれと並行して立てられた誓い――

「病める時も健やかなる時も…あ…私、病みっぱなしだけど」
「死が二人を別つまで…?」
「いいえ、死んでも一緒だわ」

 これらを以って彼女たちは「契約」を果たした。

 めぐは不治の病に冒された少女だ。幼い頃から「死」を宣告され続け、何年も死に損ないながら病院に縛り付けられている。
 彼女を包むのは諦観であり、そこから派生した強烈なまでの「甘美なる死」への願望だ。
 水銀燈という、漆黒の翼を羽ばたかせる「天使」に出会ったその日から、めぐは彼女に「命」を捧げて死ぬという美しい結末に囚われていた。

 他のドールたちとは違い、契約を交わさぬままに人から力を奪うことができる。そんな彼女にとって、マスターとはただの燃料タンク、搾取対象に過ぎない。彼女が冷酷な性格だったのなら、めぐの要求は願ってもないものだったはずだ。
 しかし水銀燈はなかなかめぐとの契約を交わさない。馴れ合うを嫌う彼女は、悪態を吐きながらも、いつのまにか病室の窓辺に舞い降りてそっとめぐの歌に耳を傾けるのだった。

 水銀燈とめぐ、この2人はまるで傷付いた野良猫のような存在で、時に鋭く傷を抉りあい、時に不器用に慰めあい、そんなようにして徐々に傷の舐めあいにも似た独特の絆を築いていく。それでも寄り添うように、ドールとマスターの枠組を超えた契りを交わすまでに、2人の想いは深まっていく。

 2人が互いを求めるのは、ある種の代替行為であるように思う。
 水銀燈はローゼンメイデンとして、究極の少女「アリス」を目指すという至上目的を設定され産み出された。彼女に限らず、ドール達が求めるのは「お父様」であるローゼンの愛そのものだ。
 そして水銀燈は、姉妹の中で最も深い絶望を味わっている。自分の妹が創られるということは、自分は「お父様」の求める少女にはなれなかったということだ。つまり最初に創りだされた彼女は、どの姉妹よりも多く「選ばれなかった」という事実を突き付けられているのだ。父ローゼンへの愛憎が、水銀燈の激しさの原動力となっているのだろう。
 一方のめぐもまた、父親の愛を何よりも求めている節がある。
 不治の病に冒されながら宣告通りに死なない娘は、彼女の両親に取って大きな負担となり家庭の崩壊を招いた。今でもたまに会いに来る父親も仕事に忙殺されろくに彼女の相手をしない。ヒステリーを起こし追い返しながらも、それは彼女が暖かい家庭を望む心の裏返しだった。
 望む愛を受けられない2人が出会い、互いをある種の逃避の対象としながらも惹かれ合う、そんな倒錯的な姿に私は魅かれました。ドールにとってマスターがお父様の代わりに愛を受けられる存在であるという側面は水銀燈に限った話ではないけれど、他の組ではここまで耽美な雰囲気は出ないよなぁ。


 さて、話は進み、契約後に第7ドール雪華綺晶に連れ去られためぐ。紆余曲折の後、なんとめぐはすっかり元気になり退院を果たして、ジュンの通う中学校の転校生となっていたのだった。
 そして、ちょうど同時期に復学に挑戦するジュンとの邂逅を果たす。
 
 病が治ったから、彼女を支配していた死への憧憬が薄れたかといえばそうではない。
 むしろ病院を抜け出してもなにも変わらない、この世界は自分にとってどこまでも飛び立つのを妨げる鳥籠でしかないとめぐは嘯くのだ。
 閉じこもっていた場所から、一歩でも踏み出しさえすればそこには輝ける世界が広がっている。そんなテーゼをこの作品は容易には肯定してくれない。ドール達との出会いによって成長し、引きこもりから脱却する決意を見せたジュンでさえそれは同じだ。決意とは裏腹に、彼の身体は学校を拒絶する。それどころか同級生や教師たちまで自分を拒んでいる、ここは自分の居場所などではないのだと、そんな自意識が彼を蝕み苦しめ続ける。
 間に挟まれた「まかなかった世界」のエピソードもそれを補強するように、引きこもりから自力で脱して大学へ進学するも、灰色の毎日を送る大人ジュンの日常が描かれていた。
 彼ら彼女らを苛むのは目の前の壁だけでなく、むしろその向こうの世界だ。戦うことは生きること、生きることは戦うこと。踏み出した一歩のその先に延々と続く戦いにもがきながらも立ち向かおうとするジュンと、変わらぬ諦観を持って全てのしがらみから自由になりたいと願うめぐ。2人の邂逅は、明快な対比となって本作のテーマを浮き彫りにした。

 めぐはジュンを踏みながら、鋭利な言葉を持って彼の自意識に抉りこんでいく。
社会に適合できない自分のせいで一体どれだけの人に迷惑をかけているのか、家族の時間を犠牲にしているのかと、彼女はジュンを責め立てる。
 しかし「死ねっ…! 死んじゃえっ!」と叫ぶ彼女の目には涙が。彼女はジュンを通して、自分自身を傷付けているのだ。ただ生きているだけで、周りをめちゃくちゃにしてしまうジャンク。彼女が他者へ向ける攻撃性はいつだって自罰的な感情を孕んでいた。彼女の死への願望は、周囲への絶望と、自分が周囲へ振りまく呪いからくる罪悪感がないまぜになったがゆえのものだろう。「死」だけが彼女を鳥籠から解き放ち、罪を清算できるのだ。
 
 だが彼女を美しく死なせてくれるはずの水銀燈は、一向にめぐの命を奪わない。それどころか、彼女が自分を生かそうとしている事にさえめぐは勘付いていた。
 だから彼女は雪華綺晶と手を結ぶ。ドールとしての身体を持たず、本来の目的であるはずのローザミスティカそっちのけで実存を妄執的に求める雪華綺晶は、めぐとの融合を持って自らを歪なアリスとして変態させた。
 めぐと雪華綺晶の融合体は水銀燈と対峙し、金糸雀と翠星石のローザミスティカを取り込む。ただ奪われたローザミスティカは劇薬、拒絶反応による激しい痛みに苦しみながらも、すぐそこまで近付いた甘美なる死の誘惑に笑みを見せた。
 めぐを救うために飛ぶ水銀燈を、ついに雪華綺晶が貫く。しかし、めぐは彼女のローザミスティカを奪うことを拒んだ。めぐの目的は始めから約束の履行、「自分の命=集めたローザミスティカ」を水銀燈の捧げ、殺してもらうことだった。
 絶望の表情を浮かべながらも、めぐのローザミスティカを拒否し、水銀燈は彼女の命を奪う。死んでも一緒と、そう誓った2人はお互いを刺し貫いて堕ちていくのだった。

 水銀燈はめぐを助けたかったし、めぐだって役立たずの自分なりに水銀燈になにかを捧げたかった。互いが互いの望みを裏切っている事を分かっていて、最終的にはどちらも希望を裏切る形になって、「馬鹿」と謗り合いながらも、「大好き」だという想いを伝え合った、その果ての心中。共鳴し合って、希望とエゴを押し付け合って、傷付け合って、それでも最後には離れなかった。どこまでも破滅的で、それでも「誓い」だけは守られたという、あまりにも美しい結末。
 だけど、いや、だからこそ私はそれを否定したい。美しく死ぬことが救いなんてのは結局は逃避なんだ。それよりも醜く生きて、堕ちろよと。 
 涙が出るほど美しい、なのに感情では納得できない、そんな気分だ。


 彼女たちのこの結末は先のテーマとも繋がっていて、同時並行でローゼンにとってのアリスとは何なのかが明かされている。ローゼンにはかつて娘がいた、しかし生前の娘は彼に愛されなかったようで、絶望の果てに死を選ぶ。「死」によって娘は永遠となり、ローゼンが至高の少女を追い求めるきっかけになった。そして今、めぐと水銀燈もまた全てのしがらみから解き放たれて飛翔していく。
 ローゼンが求める究極の少女の条件が、「生」から解き放たれることによる永遠性の獲得を意味するのなら、それはあまりにも不毛な循環ではないか。アリスはその特性から必ずローゼンの手をすり抜けていくし、アリスもまたローゼンの思惑から脱却しようとすることで彼の望むものへとなってしまう。何処まで行っても抜け出せない閉塞的な不条理は、まさにジュンやめぐがぶつかっていかなければならない世界そのものだ。つまり、めぐが自ら飛翔と称したその行動は、結局は現実からの敗北に過ぎないのだ。
 そして伏線通りなら、物語を通して現実に立ち向かっていくための何かを得るはずのジュンだけがめぐを救えるのだ。
 めぐを捕らえて離さない甘美な死の誘惑から、醜い世界に目を向けさせるために何ができるのか、そして真紅さんはちゃんと活躍できるのか、佳境を迎えつつある物語の終幕が楽しみである。


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アニバタ Vol.6アニバタ Vol.9に寄稿しました。よろしくです。


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