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氷菓

「ふたりの距離の概算」 米澤穂信 感想

 歩き出したはいいが、道のりはまだ遠く。


 去年京都アニメーションにてTVアニメ化された〈古典部〉シリーズの5作目。アニメ最終回の続きに当たります。
 無事高校2年に進学した古典部の面々、少しずつ変わり始めた人間関係、しかしだからこそ向き合わなければならないものがある。

 今回は舞台がマラソン大会ということで、語り部である奉太郎とその他登場人物との心理的な距離感が、分かりやすく身体的な距離によって暗喩されていた。
 本作で奉太郎は、今までに類を見ないほど、それこそえるがそれを望む以前に、積極性を持って『事件』の解明に乗り出した。
 彼はマラソン大会中に古典部の面々、そして新入生の大日向と話をするために、あえて歩調を緩め、相手との距離を測り、自ら近付こうとしてゆく。それが同時に相手の心に土足で踏み込んでいくことであるとも承知しながら、その上で彼は距離を詰めることを選択したのだ。
 彼の動機は、大日向がえるに抱いていると思われる(あるいは思いたい)誤解をなんとしてでも解く、というものだ。「誤解した状態を解く」というのは『連峰は晴れているか』でも見せた彼なりの優しさであるのもそうだが、それ以上に傷付いたえるを見たくないというのが今回の行動原理であったことは想像に難くない。なにせこのエピソード、えるが抱えた問題自体は解消されるものの、それを大日向の問題として見た場合何一つ救われていないどころか、彼女に新たな罪の意識を植え付けてしまったのだ。それが道義的に正しい行為だとしても、彼が大日向をさらに傷付けることを承知でえるの名誉を守ることを選択したのは残酷ながらも一つの前進と言えるだろう。

 さて、本作では人と人との間の距離に焦点が当てられており、事件の真相も詰まるところ『友人』との距離の問題であった。
 マラソン大会中に摩耶花やえると接触を図ろうと、彼は適当に走りながら遅れてスタートした彼女たちとの距離を概算しようとするが、失敗に終わる。
 人間同士の、心理的な距離は目には見えない。あるいは近いか遠いかぐらいは主観的にも客観的にも分かるかもしれないが、その一方で当事者同士ですらそれぞれが思い描く距離が同一とは限らないのだ。
 大日向がどうやら『友人』という関係に並々ならぬ拘りを持っていることは早いうちに分かる。しばしば奉太郎と他の古典部の面々との距離感を気にしているようであったし、その後で「何も言わなくても伝わる」関係を理想としている節も見られた。
 奉太郎はと言えば、摩耶花に「人を見ない」と詰られたように、決定的な瞬間で同室内にいたはずのえると大日向の会話を全く聞いていない始末だ。長い付き合いのはずの摩耶花との理解度の差は深刻である。だからこそ、今回彼が踏み込もうとする様が成長の兆しと受け取れるのだが。
 しかしそんな彼らの、ベタついていない、ともすればドライですらある関係性に、大日向はどうやら憧憬めいた気持ちを抱いていたようである。
 彼女の『友人』は、彼女に多大な影響を与え、色々な遊びを教えてくれた。それがたとえ偏執的であったとしても、大日向が未だに彼女一人を『友人』と呼び続けるあたり、大切に想う気持ちが残っているのだろう。だからこそ縁も切れず、罪悪感に苛まれ続ける。
 いつでも一緒で、何も言わずに理解しあえて、決して裏切らない、誰もが夢想する『友人』像だが、そんなものは幻想である。大日向の感じる友情と、『友人』が抱く友情の重さは違う、ふたりの距離の概算ははっきりと行き違っている。
 長い間待たせ続けて摩耶花を傷付けた里志のように、あるいは話したくないことを承知で聞き出した今回の奉太郎のように、時には突き放し、時には踏み込むことで距離の概算が明確になることもあるのかもしれない。もっとも、それは関係性をぶち壊しにする危険性を常に孕んでいるが。
 ただ、言うべき事を言わずにズルズルと続けていくことで、泥沼に嵌まってしまう関係性もある。その辺の履き違いは今『俺ガイル』で描いてますね。
 
 自分が思い描く幻想ではなく、その人自身を見る。字面は綺麗だが、それは相手を傷つけ、却って遠ざけてしまうかもしれない。そこにある傷や痛みを白日の下に晒す、真実を解き明かすというのはそういうものであり、探偵が問われる功罪と、青春の苦味をリンクさせているシリーズだなーと、今更ながらに思った次第です。


 私個人の話をすれば、普段は全く合わないけれど年に数回連絡を取ったり、年単位の頻度で会ったりして、じっくりと話し込む様な友人が数人いて、その時々に所属するコミュニティで毎日顔を合わせる面子よりも続いていたりします。
 別にそれが真実の友情だとかのたまうつもりはないけれど、切っても切れない関係ってのも意外と強かったりするかもよ、っていう話。
 もちろんある程度思い出を共有してるってのは前提としてねー。


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