アニメを中心に、漫画や映画、小説など創作物の感想を載せるブログです。

俺ガイル

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 9巻 感想

 4月発売なのに、12月まで感想を上げなかったのは作中時間に合わせるのを狙ったからなのサ!


 やり方は変えたはずなのに、守ったはずなのに、そこに望んだ空間はなかった。
 頭をもたげる冬の寒さに呼応するかのように、冷え切っていく奉仕部。
 八幡は理屈を並べ、考察を重ね、迷走を繰り返す。
 行き着く先は一つの疑問だった。自分が欲しかったのは、なんだ?

 まず目が行くのは結衣の痛ましさ。
 彼女は元々友人関係において気を遣いすぎる嫌いがあり、空気を読んでばかりで自分の事は後回しにしてきた。そんな彼女が心からの笑顔を見せることがでいるようになったのは奉仕部に、八幡と雪乃に出会ってからである。
 だが現状はどうだ。かつて結衣が自分を出せなかった三浦グループにおいてはリラックスした表情を見せ、皮肉にも居心地の良い空間のはずだった奉仕部においてかつての自分に回帰してしまっている。
 誰もが取り繕うのは、彼らが三者三様にその空間を失いがたいと思っている証拠だが、それがためにあの時確かにあったはずの『本物』から遠ざかってしまう。

 八幡が自覚的に行なっている延命行為は彼が最も嫌っていたはずの欺瞞である。
 彼は感情では動かない、動けない。前回小町に理由をもらったように、今回いろはや留美を理由にしたように。誰かへの義理と責任を肩に引っ掛け、理論武装してから行動に移す。そこには確かに自分だけの『理由』があったはずなのに、他人をダシにして自分の感情を覆い隠す、理性の化け物。
 集団に埋もれないために、ひとりで生きるために培ってきた自意識がそれを許さないのか。誰かを傷付け傷つけられるのが怖いというのもあるかもしれない。それなら自分で勝手に傷付いて自己完結をした方がマシなのだと。
 「分かってもらいたい」のではなく「分かりたい」のだと、自ら吐露した彼の内面はやはり自己防衛的なものに思える。理解できない存在が怖い、だから他人の心理の裏を読み、周囲の言動を観察し類推して、分かった気になることで安心する。
 分かるものだとばかり思っていた、とは雪乃のセリフだが、それは八幡にも当てはまる。そうやって雪乃や結衣のことを分析し、二人が傷付かないよう守ったはずだったのに、間違えてしまった。それはひとえに彼が『感情』を理解できないからだと平塚先生は指摘する。
 八幡にも当然その自覚はあり、だからこそ出来てしまった繋がりを、より深めていくことに及び腰になっていたのかもしれない。

 今回八幡の前に表れた障害の数々は、すべてが彼が今までその信念を以って「間違えてきた」行動の産物。生徒会長としての役割に押し潰されそうな一色いろは、未だに孤独から抜け出られずにいる鶴見留美、そして冷え切った奉仕部。
 過去の行動が、「償え」「購え」と亡霊のように責任を問うてくる。自分の過去を否定しない、自己肯定を自身の強さとしてきた彼にツケを払えとでも言うかのように、臨界点に達しはじめた八幡の虚偽と欺瞞はこうして形を為したのだ。
 
 そして今の自分たちの状況を客観視させるかのように、クリスマス合同イベントで八幡は海浜総合高校とその生徒会長・玉縄と出会う。
 誰の意見も否定せず、取捨選択すら行なわず、みんなの意見をすべて取り入れる。繰り出されるポジティヴな言葉はなにも結実することなく会議は際限なく新たな議題を取り込み続ける。
 ぐるぐると回り続ける会議の様相は、期限が近付くにつれて音を立て始める破綻の予感も合わせ、凍り付いたあの部室を想起させる。
 いまや自らが停滞の一輪を担ってしまっている八幡は、かつてのように欺瞞を断ち切る快刀乱麻の切れ味を見せることはなく、ずるずると「みんな」に引きずり込まれるように泥沼に嵌まっていく。

 表面上の平和を保つやり方は、確かに小奇麗に見えるが、各々が秘めた不満や疑念を表出できない状況は目に見えない内側を腐らせる。人と人が関われば、当然噛み合わないことも、相容れないこともあるだろう。否定が封じられ、飲み下すしかなくなれば、残るのは空虚な上っ面だけだ。
 かつて平塚先生が言ったように、仲良くできない相手と「上手くやる」だけなら、その方法が有用になることもあるだろう。しかし、そこから先に踏み込むためには目を逸らしてはいけないものがある。別に本気でぶつかりあえば分かり合えるだなんて思っちゃいないが、そうじゃなきゃスタートラインにすら立てない。

 にっちもさっちもいかなくなった八幡に道を示すのはやはり平塚先生。
 今更だけど、「魚の獲り方を教える」という奉仕部の理念を最も体現してるのはこの人だよなぁ。基本的に人と人をどっかに放り込んで基本傍観なのはちょいと乱暴だけど、的確な場面で必ず助言をくれる。さすがは奉仕部顧問。今回の平塚先生はマジでしずかっこいいでした。

「誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだよ」

 人は誰かを傷つけずには生きられない。生きる事は罪であり、罰なんだ。
 孤高の存在として「誰も傷つかない世界」を作り上げてきたつもりの八幡が目を逸らしてきたことがここにある。理解しようとしなかった感情こそが、きっと彼と彼女たちを傷つけてきた。だからこそ、自覚しなければならない。
 
 八幡は自問自答を繰り返す。わかりたいというどうしようもない欲望。その先にある、自分が本当に欲しいものはなんなのか。
 依頼者として奉仕部の扉を叩く八幡。その口から出るのはやはりいつもの理屈ばかり。ガチガチにコーティングされた理屈は彼の醜い感情を覆い隠す。まちがえた答えによって導かれるのは、奉仕部の現状の責任を問う詰り合いという八幡が望まない光景。
 底を突いた理屈、それでも言葉を捜し続ける八幡の口からついに零れ出たのは、本人ですらわかっていないだろう剥き出しの感情。

 「わからない」とその場を去る雪乃。立ち尽くす八幡。
 理解を超えた空間で、それでも前を向いたのは由比ヶ浜結衣。
 「わかんないで終わらせたらダメなんだよ!」
 バカは時に核心を突く。
 人はわかり合えない。それでも大切に思えば思うほど、他人をわかりたいという欲望が募っていく。だからこそ、何度まちがっても何度すれ違っても何度傷つけても問い直し続けるのだ。いつかそのうち、ほんの一瞬でも、わかり合えたとそう思えた日が来れば。その一瞬は永遠になる。それを「本物」と名付けることができるかもしれない。

 まちがえ続けた彼らの青春は、八幡のブレイクスルーによってまるでベタなドラマのようなシチュエーションを迎える。若干のひねくれが残っているのが、雪乃が逃げた先がかつて相模が青春ドラマの再現を狙った定番の場所である屋上ではなく、空中廊下であるという点。ひねくれというか、おそらく本来は校則上こうあるべきなんだろうな。雪乃らしいチョイス。
 夕日の空で、感情をぶつけ合う少年少女。そこで流したものは果たして真実の涙だったのか、少なくとも八幡はそう思えたはずだ。

 人の感情を完全に理解することはできない。言葉はいつだって足りなくて、時にあざむきさえする。それを受ける人だって、その意味を自分勝手に歪めて捉えてしまうだろう。話せばわかり合える、なんてのは幻想だ。それはまったく正しい。
 それでも、人は言葉に託すしかない。

「いいかい、気持ちなんて伝わらない。伝えたいものは、言葉で言いなさい。それが、どんなに難しくても、それ以外に方法はない」

 彼らは「わからない」と再確認したに過ぎない。それでも、止まっていた時はやっと動き出した。


 ややぎこちないながらも、わだかまりの解けた一行はついに千葉が誇る夢の国「東京ディスティニーランド」へ。……「千葉」じゃ語呂も悪いし箔も付かないからね、仕方ないね。
 とにかく全力で夢の国を楽しむ結衣と、それに引き摺られる八幡・雪乃の姿がね、本当に感慨深いというかなんというか。この作品、何度も何度も関係を壊しては作り直してのビルド&スクラップ(これ同じ意味だな)を繰り返していて、フィクションの中ですらこの光景が永遠ではない事をイヤというほど思い知らされているから、こんな何でもないシーンの切なさと愛しさと心強さがハンパないんですよ。青春の負の面をひっくりかえさんばかりに見せ付けてくるから、逆にこの日々のかけがえのなさが身に沁みる。影を執拗に描くことで、青春の輝きが輪郭を帯びてくる。愛おしいとしか言いようがない。

 そしてそんな八幡たちの姿を目の当たりにして影響を受けてしまった人物がひとり。
 いろはすは、なんというか色んな意味で正しく八幡の後輩なんだなーって、この巻でグッと存在感が出てきた印象。被った猫も打算もかなぐり捨てて、心のままに玉砕した彼女の意識改革が無駄ではないことは、八幡曰く超個人的な理由を振りかざしてようやく彼女なりのリーダーシップを発揮したのを見ればよく分かる。奉仕部の仲に入り込めないで拗ねてる所を見た時は、「この子次巻でフェードアウトしそうだなー」と思ってたらアレですからね。本当にいろはすは図ぶt……強い子ですよ。
 最終的に彼女が生徒会を自分の居場所にできたんだなーと、そう実感できて良かった。新ヒロインにしてはかなりの人気を誇ってるようだけど、納得の魅力がある。よく考えると腹黒後輩生徒会長って濃いよなぁ。私は地味に後輩萌えなので結構やられてます。

 ヒロインと言えば、ここにきてヒロイン力を大幅に上げてきたのが雪乃。
 「いつか、私を助けてね」という台詞が象徴的だが、きっとそう単純にはいかないんだろうなー。彼女が誰かを救おうとしている、という伏線もある以上、ある意味では物語上でのミスリードに近いかもしれない。
 とにかくゆきのんのデレは分かりづらいのがいいですね。スプラッシュマウンテンでこっそりツーショット写真買ってたことに他人の指摘を見るまで気づかなかったのは、私の目が節穴だったからではなく単にそういうシステムがあることすら知らないほど夢の国に縁がないからだ!
 ちなみに私は雪乃派ですが、別に八幡とくっつくことを望んでるわけではないという面倒な立ち位置です。


 さて、ついに奉仕部全員がクリスマスイベントに参戦し、海浜総合高校との対決へ。
 愚直に「みんなで協力」を掲げ続ける玉縄だが、今の八幡は否定することの誠実さを知っている。責任を分散させ誰も傷つけないやり方に対する、自らが泥を被り事態を進行させる、これまで通りの八幡のメソッド。しかし今回、トドメの一刀を振るったのは雪乃だった。平塚先生曰く破調の美。一緒に咎を背負うことができるなら、少なくとも孤独にはならない。あくまで閉じた関係性の中での美、と釘を刺すあたりがさすがです。

 相変わらず一人で作業に勤しむ鶴見留美と八幡のやり取りがまたいいんだよなー。
 二人で協力するのではなく、二人がそれぞれ「一人でやる」。屁理屈にもなってないバカバカしい光景だけど、これが「結局八幡が他人との関係を望むんなら、一人でいることは否定されるの?」という問題に対する鮮やかな解になってるんだよ!

「一人で生きられるようになって、初めて誰かと歩いて行く資格がある。一人で生きられるから、一人でできるから、きっと誰かと生きていける」

 誰にも頼らず一人で生きてきたぼっちだからこそ、誰かを利用するでもなく依存するでもなく足を引っ張るでもなく、共に歩むことができる。あの時、八幡が始めて理屈を剥がした生の感情を曝け出した部室で、差し出された結衣の手を「あえて」取らなかったのは、彼女に手を引かれるんじゃ意味がないから。
 あらゆる欺瞞や打算を排して、そこに残った完全結晶のような「本物」を望むのなら、誰かと手を取り合うのなら「一人」で生きられなければいけない。見事な発想の転換、個人的にここが一番感動したまである。
 ひたすらに堕落のための協力を掲げ続けた海浜総合高校との対比がここでも活きてますね。すばらっ!

 演劇の主役になることで「みんな」の輪に溶け込んだ留美、その結末はともすればご都合主義にも見えるかもしれないけど、ずっと影で一人でやってきた彼女という「個」が表舞台に上がることで、その存在を認められるというロジックは理に叶ってるんだよね。
 留美にしても、いろはにしても、誰かの姿を見て少女革命を果たすそのプロセスは、図らずも奉仕部の「魚の獲り方を教える」という理念に適っていて、だからこそまちがえずに上手くいく、という構造になっているわけです。完璧です。

 欲しい物がプレゼントされるクリスマス、それでも八幡は与えられるのを是としない。
 誰かに与えられたものはきっと偽物だから。魚を与えるのではなく、魚の獲り方を。たとえ欲しい物が手に入れられなくても、すれ違ってしまっても、代わりに手にした賢者の贈り物はきっと「本物」だから。
 紅茶の温もりが戻った奉仕部。八幡に贈られたまちがった、だけどまちがってないプレゼント。「依頼はまだ終わってない」と悪戯っぽく微笑む雪乃。八幡の願ったものは、理解されず、されど聞き届けられた。彼らの青春は、もう少しだけ続く。


 ひねくれてるのは、きっと誰よりもロマンを求めているから。
 辛い時期が長く続いただけあって、八幡の想いが決壊したこの巻の突き刺さりっぷりは尋常じゃありませんでした。私にとっては既に完結を待たないまま傑作認定。これ以上の青春小説にはもう出会えないかもしれない、という想いを抱きつつあります。
 結衣の依頼に始まり、八幡が自らの願望を依頼する。きっと最後には雪乃が依頼者として奉仕部の門を叩くのでしょう。けれど同時に、ただ彼女が救われるだけの物語にはならないだろうという確信を持ってもいます。誰かと生きていくために、彼女もまた一人で生きられるようになることを要請されるでしょうから。
 彼らの冬はまだ始まったばかり、けれどその先には必ず雪解けの春が来る。どんな結末になろうと、まちがった青春の行方を見届けたいと思います。

関連記事
スポンサーサイト
Comment
Trackback
Trackback URL
Comment form













管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

ぽんず

Author:ぽんず
私は好きにした、君らも好きにしろ

アニバタ Vol.6アニバタ Vol.9に寄稿しました。よろしくです。


このブログについて

※感想記事はネタバレがデフォです。

当ブログはリンクフリーです。お気軽にどうぞ!
現在相互リンク募集中


twitter
検索フォーム
ランキング
にほんブログ村 アニメブログ アニメ感想へ

アクセス解析
外為どっとコムの特徴
ブロとも申請フォーム
QRコード
QR

Page Top
Powered by FC2 Blog | | Template Design by スタンダード・デザインラボ