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響け!ユーフォニアム2 9話 「ひびけ!ユーフォニアム」感想

 田中あすかに向き合え。




 これまでずっと誰もその心情に立ち入ることのできない孤高の存在として描かれてきたあすか先輩。こっちもそれならと磨き上げられた宝石のようにその孤高性を眺めていればよかったのだけど、ついに仮面の内側に迫るエピソードが来てしまった以上、向き合うべき時が来たということなのでしょう。
 どこまでが本音でどこからが建前で、どの程度自覚しているのか分からない。あすか先輩に限らずユーフォの登場人物はほぼ全員、もっと言えばあらゆる人物に当てはまることですが、その性質がもっとも色濃く出ているキャラクターの一人であることは間違いない。今回もそのすべてを言葉で、あるいは映像ですらも語っているわけではない、だからこそ的外れを覚悟の上で決め付けて語っていかなければならない、というのが前提にあることは先に言っておきます。いや、そんな事はあらゆる創作物に対する感想において当たり前の前提条件なので今更なんですけどね。
 もう一つ、私はこのシリーズを『ユリ熊嵐』の文脈で見ているので悪しからず。透明な嵐と、スキを諦めない個人の話。

 あすか先輩のことを考えるにあたって、まず本作の主人公である久美子について考えなければならないのが厄介なところ。なぜなら「あすか先輩はなぜ久美子を選んだのか」というのが彼女の核心に迫る問いだから。
 吹奏楽部という閉鎖的な空間を支配するのは常に集団の空気。顧問の滝先生はタクトを振るうように巧みにその指針を全国大会に向けさせましたが、一方で人間関係のこじれにはとんと疎い所がある。その場の空気に合わせポジショントークしかしない部員たちは、個が突出した途端足並みを乱す。断片的に語られる過去の惨状はそれが最悪の形で表れたものだし、麗奈は一時排除されそうになり、そして今あすか先輩という支柱を失って再び崩れかける様相が描かれている。
 そんな集団の中にあって、普段はどっちつかずで埋没しがちな振る舞いをしながら、いざという時には空気の流れに抗ってみせる久美子が本作の主人公であるというのが象徴的。強引な問題解決能力を持つタイプの主人公ではない(本作で言えば2期4話の優子がそれ)、ともすれば何もしない主人公ではあるけれど、間違いなく彼女はスキを諦めない強さを持っていて、そこに中川先輩や麗奈は信頼を寄せているのだと思います。それはきっと、あすか先輩も。
 久美子は以前からポロッと失言を口にしてしまうキャラとして描かれていますが、それは普通なら円満な人間関係のためにスルーする建前の裏に踏み込める、という良くも悪くもな特質なんですね。言葉の裏を勘ぐる、というのは例えば今回の夏紀先輩への「本心ですか?」という問いのように当然的外れにもなり得る(実際のところどっちかは分かりませんが)のですが、その集団に併せて自己を殺してるんじゃないか、という可能性を見過ごせないのが久美子の美点でもあるのだと思います。
 その意味で、家族の圧力に負けて自分の意志を通せなかった姉のエピソードを挟んだのは彼女がその気持をより強く意識するという点で大きな意味があった。久美子は煙に巻こうとするあすか先輩に対しても、「やめないですよね」と念押しをし、母を「嫌いじゃない」と評するのにも「嫌いなんですよね?」と食い下がる。本心を隠してスキを諦めることに強い抵抗がある性質を物語が進むにつれ前面に出すようになる、というのが音楽の技術とは別に久美子が果たしてきた成長なわけです。

 さて、それではあすか先輩は一体どこまで久美子に期待していたのでしょう。「話を聞いてほしかった」と語る彼女の言葉は本音だと思います。少なくとも誰にも話していないだろう父親のことは最初から話すつもりだったでしょうから。
 しかしそこから先、音楽を諦めようとしている自分に久美子が食い下がる所までは期待していなかったと思います。「あすか先輩がいつもと違うんですよ」と言われた彼女の驚きは素のものだったでしょうし、無意識下で止めて欲しいという想いが働いていたとしても自覚はしていなかったのではないでしょうか。

 あすか先輩が本当に久美子に求めていたもの。私はそれを『断罪』だと決めつけます。
 これまでの物語を見ていても、あすか先輩の吹部へのスタンスは一貫していて、真面目に音楽に取り組む人に対しては友好的、環境が腐っていれば我関せずで中立な態度を取り続けるし、私情を挟む者については冷淡でさえある態度を取る。それはひとえに、音楽に対する信仰にも近い理念があるからだと思っていました。何のためでも誰のためでもない、ただ純粋なまでの音楽への希求。それが為せない者は愚かであり、音楽に関係ない事柄を持ち込むなど言語道断だと。
 一側面を見ればその見込みは当たっていたのだと思います。ただそれは思ったよりもずっとあすか先輩の歪みを象徴するものでした。好きな音楽を続けるためには成績を落としてはならない。母親に課せられた枷は少女にとっては絶対であり、彼女のストイックさに磨きを掛ける要因だったように思えます。そしてそんな自分の環境と、周囲の人々との比較が彼女にある種の優越感を生む。遊びでやってるお前らとは違い、自分は他のすべてを削って音楽に向き合っているのだと。あすか先輩が周囲との間に作る壁はおそらくそういった自意識のこじれがもたらしたもので、彼女が孤高足り得る所以なのだと考えます。
 その彼女の有り様は周囲からは超然としたものに映り、あすかは自分たちとは違う『特別』な存在なのだと外側からより一層その孤高性を際立たせる形になります。特に香織先輩は最もあすか先輩を『特別』に押し上げている人物であり、麗奈とソロ争いをした時は他の誰でもなくただあすか先輩の判断を仰ごうとしていました。
 あすか先輩が部活を辞めるかどうかの瀬戸際に立ったいまも同じ、既に違う場所に立つことを示す新調されたスニーカーの靴紐を結ぶシーンが何よりも象徴的で、香織先輩はどこまでも彼女に傅く存在であり、結び直される縁は『特別』から外れることを許さない枷。だからどんなに香織先輩が求めても、彼女はあすか先輩の予想を超えることができない。
 「かわいいでしょ」という言葉に込められた蔑みにも似た諦念。たまりませんわぁ。
 葵先輩もまた、彼女を特別視するがゆえに劣等感を抱え、その目線を否定する久美子に「あすかが自分と同じレベルに墜ちたこと」への昏い悦びを見せるわけです。やっぱり葵先輩がいると視点がグッと深まる気がしますね。名脇役です。
 そして自他共に周囲とは一線を画した『特別』な人間として扱われる田中あすかという少女をただひとり対等な目線で見つめる人間こそ、我らが主人公の黄前久美子なわけですね。
 
 さて、あすか先輩と周囲の関係性は大体そんな感じだったと思いますが(単純に周囲を見下しているだけではない、というのは晴香との関係性にも表れているけど詳しくは割愛)、そんな彼女のアイデンティティにもクライシスが訪れます。
 全国への切符を掛けた大一番の直前、あすか先輩はらしくない演説をぶちかまします。これまでコンクールに勝つことへの執着すら見せない、それほどまでにストイックだった彼女を動かしたのは、審査員一覧のある名前。
 記憶もほとんどない父親、それでもユーフォは彼女と喪われた父性を繋ぐ絆だったし、潜在的な渇望は彼女に「勝ちたい」という欲をもたらす。しかしそれは、彼女が散々蔑んできた音楽に関係ない個人的な事情そのものであり、その瞬間彼女の纏う『特別』の鎧は綻びを見せるのです。彼女がその特別性を失ったことを象徴するかのように、母親という少女・田中あすかを縛る鎖が学校に姿を表します。母親の襲来は、学校という空間において揺るぎない存在だったあすか先輩の立場を大きく揺るがします。事実、そこから彼女は居場所を失いかけ、そして周囲もまた彼女を「普通の人間」として見る向きへと変化していきます。
 あすか先輩はそれらの事象全てを含めて欲をかいた「バチが当たった」のだと称したのだと思います。これまでずっと踏みにじってきた個々人の想い、結局は自分もそれに囚われてしまったという皮肉。そして犯した罪を裁く者として、彼女は久美子を選んだのだと思います。
 なぜならあすか先輩にとって久美子はある種の鏡だから。久美子は物語を通じて初めて音楽を始めた時の感情を思い出し、徐々に音楽への真摯さを見せ、そして周囲の空気に振り回されながらも純粋に上を目指そうとしている。そのひたむきな姿はきっと、音楽のために身を削っていく内にいつの間にか失ってしまった、子どもの頃のあすか先輩に重なるものがあったのではないでしょうか。かつての自分に今の自分を否定してほしい。久美子が呼ばれた理由はきっとそんなもので、ただあすか先輩には誤算がひとつ。久美子は久美子だった、ということです。
 『今の』あすか先輩が奏でる音が好きなのだと、どこまでも真っ直ぐな言葉。それは「あの曲」などではなく本当は自分自身を否定してほしかったあすか先輩にとって、香織先輩がついぞ為し得なかった予想外であり、彼女の諦念を救う唯一のマスターピースだったのではないでしょうか。
 いくらあすか先輩が幾重にも絡まった自意識を抱えていようと、奏でる音に嘘はない。それは誰かの心に確かに響くことなのだと、彼女のこれまでを肯定する言葉。あすか先輩はついに、ユーフォを抱えて閉じられた家を出ます。開かれた世界に音を響かせるために。
 夕焼けの河原、橋の下で奏でられるやさしく暖かく、そしてどこか切ない音楽。あすか先輩の境遇はなんら変わったわけではない、彼女が部活に戻れる保証は何もない。それでも音楽が好きだという事は絶対に揺るがない。あすか先輩が吹くその曲は、そんな彼女の『氷菓』だったのだと思います。あの日あの時あの場所で、彼女は確かにただの少女だった。



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アニバタ Vol.6アニバタ Vol.9に寄稿しました。よろしくです。


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