映画
2022年劇場鑑賞映画ベスト10
あれあれー?
去年はベスト20だったのにベスト10になってるぞー?
今年は多分40本くらい劇場映画観てるんですけど、正直前半期の記憶があまりにも朧気で、20本も書けそうになかったので10本に絞ることにした次第。良い映画を観たらその時点でまとまった感想書き起こしとくべきだなと、反省しきりです。
第10位 ONE PIECE FILM RED

今年の映画ベスト10を作成するにあたり、ぶち当たったのが「犬王とワンピどちらを採用するか?」という問題である。
「音楽を題材にしたアニメ映画」という共通点のある2作で、音楽という文化と人間社会との関わり方を描いた作品、という意味でたまたま自分の刺さり方も似通っていたため、選ぶならどちらか一方だろう、という発想になったわけだ。ぶっちゃけて言えば映像作品としての完成度は『犬王』の方が様々な面で上だし、映画ベストとして選ぶなら『ONE PIECE FILM RED』よりも相応しいだろうと私の理性も囁いている。
それでも本作を選んだのは、この映画を作品として成立させているただ一つのファクター、ヒロインにして事実上の主人公である『ウタ』というキャラクターが近年でもトップクラスの刺さり方をしたからである。
シリーズの主人公・ルフィの幼馴染として「突如生えてきた」このキャラクターは、彼のオリジンと密接に関わるようデザインされており、劇中での行動の尽くが写し鏡として機能した結果、「原作において一切モノローグが描かれない」という特性を有したモンキー・D・ルフィという人物のパーソナリティを外側から掘り下げるような役割を果たしている。
その結果、20年以上の連載の中で一貫した行動理念を持ちながらもその全貌が掴みづらかった主人公の考えていることが手に取るように分かるようになる、つまり、原作の読み味そのものが変化するほどの影響を与えたのである。そして、意図的にブラックボックスとされているルフィの目的が明らかになるであろう最終章の開始が、劇場公開とほぼ同じタイミングでアナウンスされた辺り、これがある程度コントロールされた事象であるとも言える。なにそれ怖い。
おまけに彼女の思想や顛末が「これまでのONE PIECE」の自己批評としても機能しているのだから、映画単体として評価することはもはや不可能と言えよう。
こんな映画体験は当然類を見ないため、映画としての評価点には数えづらいものの、こちとら既にウタの存在を脳裏に刷り込まれてしまっているため、今年の映画を語るに当たって絶対に無視ができない、という何とも形容しがたい自体に陥ってしまったが故の、10位という扱いになります。
映画の内容そのものとはあんまり関係ない話をしてしまったが、本作単体での魅力を語るとすればやはりウタという人物のキャラクター造形に尽きる。世界を滅ぼす力を持ちながら、世界を救う使命感に駆られる少女。しかしその孤独な来歴から、あまりに世界を知らない彼女が志向する『新世界』はどこまでも幼稚で、救世主となるには致命的に未熟であるが故に、破滅の一途を辿ることになる。(そもそも設定的に最初から詰んでいる説有り)
このように、ウタの説明がそのまま作品のあらすじになってしまうほどに、物語の絶対的な核となっており、加えて『音楽』という要素がそのキャラクター性と密接に絡み合っているのがスゴい所。大衆に崇められ、救い手として祭り上げられた挙げ句、精神的重圧によって追い詰められ、ドラッグに身をやつして破滅する、という音楽文化における負の歴史まで盛り込まれてるのだから、尾田栄一郎という作家の底知れないキャラクターメイキング能力には舌を巻く他ない。
ネット文化から生まれた現代日本における歌姫・Adoの起用や、豪華アーティスト群における劇中歌の数々、それらすべてが、複雑かつ単純でどうしようもなく切実なひとりの少女を表現する、ただその一点において奇跡的に噛み合っており、それが決して映画的に優れているとは言えない本作を愛せる理由であります。ただ金に物を言わせて曲数増やせばいいってもんじゃねーんだよ、聞いてるかチェンソーマン。
最後に、主題歌『風のゆくえ』のMVが今年屈指のアニメーション作品となっているので、紹介しておきます。
第9位 ブラック・フォン

ホラー映画というジャンル、いくつか型があると思うんですが、近年は特にミソジニーやレイシズムを落とし込んだ作品が強い印象があって、今年で言えば『MEN 同じ顔の男たち』や『NOPE/ノープ』がそれに当たります。しかし今年のホラーを代表して一本選ぶにあたり、そのどちらでもない、ジュブナイル・ホラーとしての佳作である本作が意外と頭の隅に引っ掛かっていることに気付きました。
「断線している黒電話から死者の声が聴こえる」という怪異そのものではなく、幼い兄妹を取り巻く現実の環境そのものが乗り越えるべき恐怖として設計されているひねりが全編に渡って利いており、舞台も作劇も非常にミニマルでありながら非常に美しい構造美を備えている作品。
「小さな子どもたちを力で支配する大人たち」という構図が徹底的に画面に表れた舞台、演出、レイアウト設計。なればこそ、幾度の失敗を経てもなお、知恵と勇気で絶望を覆す彼らの”闘い”が実を結ぶ時、確かなカタルシスを得ることができる。この純粋なカタルシスの質が、他の2作を超える本作最大の強みだったのかな、と思います。
第8位 RRR

水と炎! 使命と友情!! 交差していく運命に揺り動かされる二人の男たち!!!
というあまりにもシンプルで、あまりにもパワフルなストーリーが、3時間に渡り全力で繰り広げられる壮大なインド叙情詩。
とにかく画の主張が強く、一歩間違えたらギャグみたいになる絵面も「最高にカッコいいだろ?」という作り手の自信が漲っており、素直にのめり込むしかなくなる。先刻まで死にかけていた奴が、次のシーンでは何事もなかったのかのように大暴れしてたり、めちゃくちゃな作劇なんだけど、アイディア豊富なアクションはわりと丁寧に理屈を通しているなど、勢い一辺倒でもないのがニクいところで、荒唐無稽な映像に神話としての説得力を持たせている。
何より、主役のビームとラーマが最高に魅力的で、運命に引き裂かれるこの二人が再び共に戦う姿を心から望むようになるので、展開のわかりきった長尺の構成がまったく苦にならない。
ある意味最大の見せ場でありながら、差別や分断との非暴力による闘い、というテーマ性が完璧に表現されたインド映画お馴染みのミュージカルシーンは圧巻の一言。ここで飛び出すセリフは今年最強の名言である。
「ナートゥをご存じか?」
第7位 さかなのこ

さかなクンの半生をのんこと能年玲奈が演じる、と聞いたら「なに?」となるような企画ながら、実際に見てみると徐々に違和感が消え失せていくというスゲー作品。こういうのが映画のマジックというものなんだから、アリエルが黒人キャストになったくらいでガタガタ抜かすな。
作劇は非常にユーモラスで、コントにならないギリギリのラインを絶妙に突いた「ちゃんとした映画」になってるのが近年の邦画には見られない独特の視聴感を醸しており、個人的にはATB映画のひとつである『フォレスト・ガンプ』を想起させるものがあった。
幼少期から我々がよく知る「さかなクン」になるまでの半生を追う作劇は、変わり者の主人公・ミー坊が周りを振り回しながら、好きなことに対する強く純粋な情熱を以って描く、というもので、表面的には所謂「やさしい世界」のハートフルなストーリー、のように見える。しかし、ひたすらに好きを貫く一種の天才性が故の視野狭窄、視座のズレが、併せて描かれる周囲の人物の半生を通して間接的に描かれているのが、本作の一筋縄ではいかないところであり、映画としての強度を一段階上げている要因になっている。
得体の知れないゾワゾワ感を覚えるという意味では、間違いなく本作は邦画らしい邦画であるし、今年屈指の怪作であったように思います。
第6位 トップガン・マーヴェリック

トム・クルーズという稀代の映画スターによる、あまりにも純粋な映画讃歌。
特撮からVFXへ、白人主義は批評対象へ、マチズモは打倒すべき価値観へ。あの頃の映画スターたちは老いていき、新しい才能が台頭していく。時代は変わり、栄光は過去になる。それでも終わりは今じゃない。まだ残っている可能性をかき集め、さらに向こうへと、36年の時を経て、マーヴェリックは再び空に帰ってきた。
誰よりも映画のマジックを信じた男が、あの頃我々が見た可能性の残滓を、いま再びスクリーンに蘇らせた。飛翔するF-15が空を舞い最新鋭機を撃破する、盛大な嘘に宿ったハリウッド映画の魂は、決して無条件に受け入れていいわけではないけれど、必ずしも正しくはないものにどうしようもなく胸を熱くさせられるのが、映画ひいてはあらゆる創作物の功罪であることも、また確かなのである。
第5位 さがす

探しものはなんですか? 見つけにくいものですか?
自分でも分かっているようで分かっていない、潜在的な探しものに振り回され、善悪の境界を越えてしまう悲喜こもごもの人間模様を、3つの視点を通じて描き出していく傑作サスペンス。
構図や小道具に至るまで、あらゆるものが暗喩として雄弁に主張していく映像作りが素晴らしく、生臭いドラマを丁寧に補強していく。良くも悪くも邦画らしい陰鬱な作りながらも、露悪に行きすぎず人間の悲哀が真に迫る勢いで画面に漲っていました。
死と後悔と罪とを乗り越えたその先で、ようやく見つけた探しものを、卓球台のネットを通して示すラストは、今年屈指の余韻を残す名シーンであったと思います。まあこっから後の作品はほぼ全部ラストカット完璧なんだけども。
第4位 ある男

たかが数文字に、出自も過去も血筋も、何もかもが一生ついて回る、それが『名前』というもの。だからこそ、ふと思う時がある。自分とは違う名前の”誰か”になれたら、と。
社会の構成員である以上、周囲の偏見を介さずに自分のアイデンティティを確立することが困難であるというジレンマ。立ち並ぶビル群、集合団地の窓、ぼやける輪郭に、雑踏に埋没するシルエット。他者の視線を内面化してしまう人間の苦悩を、これでもかと暴き立てるかのような映像の手数は流石の一言で、だからこそ寄り添える個と個の愛の話としての構成が際立つ。
石川慶監督は、映像センスも然ることながら、俳優たちのポテンシャルを引き出す手腕も確かで、特に主演のひとりである妻夫木聡は貼り付いた笑顔の裏に確かな感情を滲ませる演技が素晴らしく、今年のベストアクト賞をあげたいですね。
第3位 モガディシュ 脱出までの14日間

観た本数は少ないながらも娯楽映画として120点を叩き出した『犯罪都市 ROUND UP』があったりと、相変わらず高水準は韓国映画。他国の内戦に巻き込まれる大使館の人々を描く本作に至っては、かの名作『タクシー運転手 約束は海を越えて』の正当進化とでもいうような、圧巻の戦乱描写が描かれ、往年のハリウッドと比べても遜色のない映像スケールにまず度肝を抜かれる。
子供が銃を手に遊びの延長線のような無邪気さで内戦に参加する様を正面から描き切る胆力と、韓国と北朝鮮の呉越同舟をてらいなく描くロマンチシズムの温度差は本来なら風邪を引いてもおかしくないものだけど、本作は敵対国同士で囲む食卓(けだし名シーン)に代表されるディテールの描写が恐ろしく丁寧なため、終始リアリティラインが保たれているのが凄まじい。
ストーリーテリングの純粋な完成度の高さは今年の映画でも1,2を争う出来であり、さらにクライマックスではMADMAXばりのカーアクションが拝める上、若干くどいながらも視線を絶対に交わさないラストのカットバックの応酬も余韻深く、総じて隙のないエンターテイメント作品となっていました。
第2位 THE FIRST SLAM DUNK

アニメという媒体の持つポテンシャルが実写をも越え得る可能性を示した、スポーツ映画の金字塔。一瞬の判断が錯綜する、瞬きする暇もない縦横無尽の運動の連続を、リアルな試合と見紛うような質感を以って描く、予想だにしなかったクオリティにただ脱帽。特にクライマックスの、ナチュラルハイで時間が引き伸ばされていく感覚を疑似体験するかのような映像表現は、今後のエポックになるんじゃないでしょうか。これが映画畑でもなんでもない、漫画家の監督作品として出てくるんだから本当に意味が分からない。
原作漫画における最後の試合を、単品として抽出するにあたり、それを映画作品として成立させるために原作者自らが考案した企画が、宮城リョータを主人公とし、彼の半生を軸にドラマを構成すること。これがこの映画最大のサプライズ要素。
試合描写そのもののクオリティが高すぎるがために、合間合間に回想を挟む構成が物議を醸したりもしていますが、2回目の鑑賞でかなり見え方が変わりました。リョータに限らず、三井やゴリ、桜木もそうなんだけど、見る側にとってはただの試合でも、選手にとってはそうじゃない、大げさに言えばそれまでの人生の総決算なんですよね。(バスケット一辺倒な流川の異常性も際立つ)
単純に練習の日々もそうだし、過去に犯した過ちもそうで、スポーツとは関係ないはずの家庭の事情だって当事者にとっては一試合あるいはワンプレーに結びついていく。人間である限り、地につける足にかかる重力は個々が抱える柵と密接に絡み合っており、そこから藻掻き出るかのように身体はゴールへと向かっていく。日常がスポーツに作用するように、スポーツにおける躍進もまた日常へ還元されていくのだ。
「スポーツマンのドラマ」を描く、『SLAM DUNK』を経て『リアル』で志向してきた井上雄彦の作家性が、今この時代に再び『SLAM DUNK』へと回帰した。何もかもが奇跡のような作品であり、その意味で今年最大のダークホースとなりました。
第1位 ベルファスト

ぶっちゃけ今年前半に観た映画の記憶がほぼ抜け落ちている状況でこの記事を書いてるんですが、それでもこの作品だけは強く印象に残っており、ベストワンとして相応しいように思えました。
モノクロの終始美しい映像で描かれた、幼年期の淡い記憶。住民たちが仲良く声を掛け合う温かな風景が、北アイルランド紛争によって徐々に形を変え、時代のうねりと共に居場所が失われていく。
淡い初恋、家族との日々。失われた故郷へのノスタルジーに溢れた映像が鮮烈であればあるほど、それでも生まれ育った街を捨てなければならない苦しみの切実さが真に迫っていく。しかし本作における人間模様はあくまでユーモラスな筆致で描かれており、主人公バディの視点から見える世界は徐々に過激化していく暴動の中にあってさえも、どこか明るく輝いてさえ映る。人と人が暮らす街、その営みの中で生まれる愛おしさが、最後の最後まで溢れているかのような映画で、だからこそそこを離れなければならないのだと、離れない選択をした大人の力強い愛の眼差しで以って終わる。ジュディ・デンチのあの表情が半年以上経った今でも忘れ難く、瞼の裏に焼き付いています。
いかがでしたでしょうか?
ラストシーンの印象が今でも色濃い『コーダ あいのうた』が入らなかったり、前後編だったり章編仕立てであるが故に『RE:cycle of the PENGUINDRUM』や『Gのレコンギスタ』シリーズを最初から選外にしたり、ランキング外でも良い映画がありながら紹介できなかったのが心残りです。
一方で、大作シリーズであるジュラシック・ワールドが無様なラストを迎えたり、傑作『天気の子』の次作ということで期待していた新海誠の新作『すずめの戸締まり』がどうにも釈然としない出来だったり、映画単体としては良いと思う所が多々有りつつもシリーズ全体への興味が完全に薄れてしまったMCUシリーズなど、なんだかなーと思う映画体験も少なからずありました。
良いなと思う映画もそうじゃない映画もあってこその趣味ですが、だからこそ、そもそも睡魔に耐えきれない、という自体が増えてしまっていることは何とかしたいと思ってます。さすがに途中で寝てしまったら語る資格はないですからね。やっぱ体力作りか?
来年も良い映画に出会えますよう。
去年はベスト20だったのにベスト10になってるぞー?
今年は多分40本くらい劇場映画観てるんですけど、正直前半期の記憶があまりにも朧気で、20本も書けそうになかったので10本に絞ることにした次第。良い映画を観たらその時点でまとまった感想書き起こしとくべきだなと、反省しきりです。
第10位 ONE PIECE FILM RED

今年の映画ベスト10を作成するにあたり、ぶち当たったのが「犬王とワンピどちらを採用するか?」という問題である。
「音楽を題材にしたアニメ映画」という共通点のある2作で、音楽という文化と人間社会との関わり方を描いた作品、という意味でたまたま自分の刺さり方も似通っていたため、選ぶならどちらか一方だろう、という発想になったわけだ。ぶっちゃけて言えば映像作品としての完成度は『犬王』の方が様々な面で上だし、映画ベストとして選ぶなら『ONE PIECE FILM RED』よりも相応しいだろうと私の理性も囁いている。
それでも本作を選んだのは、この映画を作品として成立させているただ一つのファクター、ヒロインにして事実上の主人公である『ウタ』というキャラクターが近年でもトップクラスの刺さり方をしたからである。
シリーズの主人公・ルフィの幼馴染として「突如生えてきた」このキャラクターは、彼のオリジンと密接に関わるようデザインされており、劇中での行動の尽くが写し鏡として機能した結果、「原作において一切モノローグが描かれない」という特性を有したモンキー・D・ルフィという人物のパーソナリティを外側から掘り下げるような役割を果たしている。
その結果、20年以上の連載の中で一貫した行動理念を持ちながらもその全貌が掴みづらかった主人公の考えていることが手に取るように分かるようになる、つまり、原作の読み味そのものが変化するほどの影響を与えたのである。そして、意図的にブラックボックスとされているルフィの目的が明らかになるであろう最終章の開始が、劇場公開とほぼ同じタイミングでアナウンスされた辺り、これがある程度コントロールされた事象であるとも言える。なにそれ怖い。
おまけに彼女の思想や顛末が「これまでのONE PIECE」の自己批評としても機能しているのだから、映画単体として評価することはもはや不可能と言えよう。
こんな映画体験は当然類を見ないため、映画としての評価点には数えづらいものの、こちとら既にウタの存在を脳裏に刷り込まれてしまっているため、今年の映画を語るに当たって絶対に無視ができない、という何とも形容しがたい自体に陥ってしまったが故の、10位という扱いになります。
映画の内容そのものとはあんまり関係ない話をしてしまったが、本作単体での魅力を語るとすればやはりウタという人物のキャラクター造形に尽きる。世界を滅ぼす力を持ちながら、世界を救う使命感に駆られる少女。しかしその孤独な来歴から、あまりに世界を知らない彼女が志向する『新世界』はどこまでも幼稚で、救世主となるには致命的に未熟であるが故に、破滅の一途を辿ることになる。(そもそも設定的に最初から詰んでいる説有り)
このように、ウタの説明がそのまま作品のあらすじになってしまうほどに、物語の絶対的な核となっており、加えて『音楽』という要素がそのキャラクター性と密接に絡み合っているのがスゴい所。大衆に崇められ、救い手として祭り上げられた挙げ句、精神的重圧によって追い詰められ、ドラッグに身をやつして破滅する、という音楽文化における負の歴史まで盛り込まれてるのだから、尾田栄一郎という作家の底知れないキャラクターメイキング能力には舌を巻く他ない。
ネット文化から生まれた現代日本における歌姫・Adoの起用や、豪華アーティスト群における劇中歌の数々、それらすべてが、複雑かつ単純でどうしようもなく切実なひとりの少女を表現する、ただその一点において奇跡的に噛み合っており、それが決して映画的に優れているとは言えない本作を愛せる理由であります。ただ金に物を言わせて曲数増やせばいいってもんじゃねーんだよ、聞いてるかチェンソーマン。
最後に、主題歌『風のゆくえ』のMVが今年屈指のアニメーション作品となっているので、紹介しておきます。
第9位 ブラック・フォン

ホラー映画というジャンル、いくつか型があると思うんですが、近年は特にミソジニーやレイシズムを落とし込んだ作品が強い印象があって、今年で言えば『MEN 同じ顔の男たち』や『NOPE/ノープ』がそれに当たります。しかし今年のホラーを代表して一本選ぶにあたり、そのどちらでもない、ジュブナイル・ホラーとしての佳作である本作が意外と頭の隅に引っ掛かっていることに気付きました。
「断線している黒電話から死者の声が聴こえる」という怪異そのものではなく、幼い兄妹を取り巻く現実の環境そのものが乗り越えるべき恐怖として設計されているひねりが全編に渡って利いており、舞台も作劇も非常にミニマルでありながら非常に美しい構造美を備えている作品。
「小さな子どもたちを力で支配する大人たち」という構図が徹底的に画面に表れた舞台、演出、レイアウト設計。なればこそ、幾度の失敗を経てもなお、知恵と勇気で絶望を覆す彼らの”闘い”が実を結ぶ時、確かなカタルシスを得ることができる。この純粋なカタルシスの質が、他の2作を超える本作最大の強みだったのかな、と思います。
第8位 RRR

水と炎! 使命と友情!! 交差していく運命に揺り動かされる二人の男たち!!!
というあまりにもシンプルで、あまりにもパワフルなストーリーが、3時間に渡り全力で繰り広げられる壮大なインド叙情詩。
とにかく画の主張が強く、一歩間違えたらギャグみたいになる絵面も「最高にカッコいいだろ?」という作り手の自信が漲っており、素直にのめり込むしかなくなる。先刻まで死にかけていた奴が、次のシーンでは何事もなかったのかのように大暴れしてたり、めちゃくちゃな作劇なんだけど、アイディア豊富なアクションはわりと丁寧に理屈を通しているなど、勢い一辺倒でもないのがニクいところで、荒唐無稽な映像に神話としての説得力を持たせている。
何より、主役のビームとラーマが最高に魅力的で、運命に引き裂かれるこの二人が再び共に戦う姿を心から望むようになるので、展開のわかりきった長尺の構成がまったく苦にならない。
ある意味最大の見せ場でありながら、差別や分断との非暴力による闘い、というテーマ性が完璧に表現されたインド映画お馴染みのミュージカルシーンは圧巻の一言。ここで飛び出すセリフは今年最強の名言である。
「ナートゥをご存じか?」
第7位 さかなのこ

さかなクンの半生をのんこと能年玲奈が演じる、と聞いたら「なに?」となるような企画ながら、実際に見てみると徐々に違和感が消え失せていくというスゲー作品。こういうのが映画のマジックというものなんだから、アリエルが黒人キャストになったくらいでガタガタ抜かすな。
作劇は非常にユーモラスで、コントにならないギリギリのラインを絶妙に突いた「ちゃんとした映画」になってるのが近年の邦画には見られない独特の視聴感を醸しており、個人的にはATB映画のひとつである『フォレスト・ガンプ』を想起させるものがあった。
幼少期から我々がよく知る「さかなクン」になるまでの半生を追う作劇は、変わり者の主人公・ミー坊が周りを振り回しながら、好きなことに対する強く純粋な情熱を以って描く、というもので、表面的には所謂「やさしい世界」のハートフルなストーリー、のように見える。しかし、ひたすらに好きを貫く一種の天才性が故の視野狭窄、視座のズレが、併せて描かれる周囲の人物の半生を通して間接的に描かれているのが、本作の一筋縄ではいかないところであり、映画としての強度を一段階上げている要因になっている。
得体の知れないゾワゾワ感を覚えるという意味では、間違いなく本作は邦画らしい邦画であるし、今年屈指の怪作であったように思います。
第6位 トップガン・マーヴェリック

トム・クルーズという稀代の映画スターによる、あまりにも純粋な映画讃歌。
特撮からVFXへ、白人主義は批評対象へ、マチズモは打倒すべき価値観へ。あの頃の映画スターたちは老いていき、新しい才能が台頭していく。時代は変わり、栄光は過去になる。それでも終わりは今じゃない。まだ残っている可能性をかき集め、さらに向こうへと、36年の時を経て、マーヴェリックは再び空に帰ってきた。
誰よりも映画のマジックを信じた男が、あの頃我々が見た可能性の残滓を、いま再びスクリーンに蘇らせた。飛翔するF-15が空を舞い最新鋭機を撃破する、盛大な嘘に宿ったハリウッド映画の魂は、決して無条件に受け入れていいわけではないけれど、必ずしも正しくはないものにどうしようもなく胸を熱くさせられるのが、映画ひいてはあらゆる創作物の功罪であることも、また確かなのである。
第5位 さがす

探しものはなんですか? 見つけにくいものですか?
自分でも分かっているようで分かっていない、潜在的な探しものに振り回され、善悪の境界を越えてしまう悲喜こもごもの人間模様を、3つの視点を通じて描き出していく傑作サスペンス。
構図や小道具に至るまで、あらゆるものが暗喩として雄弁に主張していく映像作りが素晴らしく、生臭いドラマを丁寧に補強していく。良くも悪くも邦画らしい陰鬱な作りながらも、露悪に行きすぎず人間の悲哀が真に迫る勢いで画面に漲っていました。
死と後悔と罪とを乗り越えたその先で、ようやく見つけた探しものを、卓球台のネットを通して示すラストは、今年屈指の余韻を残す名シーンであったと思います。まあこっから後の作品はほぼ全部ラストカット完璧なんだけども。
第4位 ある男

たかが数文字に、出自も過去も血筋も、何もかもが一生ついて回る、それが『名前』というもの。だからこそ、ふと思う時がある。自分とは違う名前の”誰か”になれたら、と。
社会の構成員である以上、周囲の偏見を介さずに自分のアイデンティティを確立することが困難であるというジレンマ。立ち並ぶビル群、集合団地の窓、ぼやける輪郭に、雑踏に埋没するシルエット。他者の視線を内面化してしまう人間の苦悩を、これでもかと暴き立てるかのような映像の手数は流石の一言で、だからこそ寄り添える個と個の愛の話としての構成が際立つ。
石川慶監督は、映像センスも然ることながら、俳優たちのポテンシャルを引き出す手腕も確かで、特に主演のひとりである妻夫木聡は貼り付いた笑顔の裏に確かな感情を滲ませる演技が素晴らしく、今年のベストアクト賞をあげたいですね。
第3位 モガディシュ 脱出までの14日間

観た本数は少ないながらも娯楽映画として120点を叩き出した『犯罪都市 ROUND UP』があったりと、相変わらず高水準は韓国映画。他国の内戦に巻き込まれる大使館の人々を描く本作に至っては、かの名作『タクシー運転手 約束は海を越えて』の正当進化とでもいうような、圧巻の戦乱描写が描かれ、往年のハリウッドと比べても遜色のない映像スケールにまず度肝を抜かれる。
子供が銃を手に遊びの延長線のような無邪気さで内戦に参加する様を正面から描き切る胆力と、韓国と北朝鮮の呉越同舟をてらいなく描くロマンチシズムの温度差は本来なら風邪を引いてもおかしくないものだけど、本作は敵対国同士で囲む食卓(けだし名シーン)に代表されるディテールの描写が恐ろしく丁寧なため、終始リアリティラインが保たれているのが凄まじい。
ストーリーテリングの純粋な完成度の高さは今年の映画でも1,2を争う出来であり、さらにクライマックスではMADMAXばりのカーアクションが拝める上、若干くどいながらも視線を絶対に交わさないラストのカットバックの応酬も余韻深く、総じて隙のないエンターテイメント作品となっていました。
第2位 THE FIRST SLAM DUNK

アニメという媒体の持つポテンシャルが実写をも越え得る可能性を示した、スポーツ映画の金字塔。一瞬の判断が錯綜する、瞬きする暇もない縦横無尽の運動の連続を、リアルな試合と見紛うような質感を以って描く、予想だにしなかったクオリティにただ脱帽。特にクライマックスの、ナチュラルハイで時間が引き伸ばされていく感覚を疑似体験するかのような映像表現は、今後のエポックになるんじゃないでしょうか。これが映画畑でもなんでもない、漫画家の監督作品として出てくるんだから本当に意味が分からない。
原作漫画における最後の試合を、単品として抽出するにあたり、それを映画作品として成立させるために原作者自らが考案した企画が、宮城リョータを主人公とし、彼の半生を軸にドラマを構成すること。これがこの映画最大のサプライズ要素。
試合描写そのもののクオリティが高すぎるがために、合間合間に回想を挟む構成が物議を醸したりもしていますが、2回目の鑑賞でかなり見え方が変わりました。リョータに限らず、三井やゴリ、桜木もそうなんだけど、見る側にとってはただの試合でも、選手にとってはそうじゃない、大げさに言えばそれまでの人生の総決算なんですよね。(バスケット一辺倒な流川の異常性も際立つ)
単純に練習の日々もそうだし、過去に犯した過ちもそうで、スポーツとは関係ないはずの家庭の事情だって当事者にとっては一試合あるいはワンプレーに結びついていく。人間である限り、地につける足にかかる重力は個々が抱える柵と密接に絡み合っており、そこから藻掻き出るかのように身体はゴールへと向かっていく。日常がスポーツに作用するように、スポーツにおける躍進もまた日常へ還元されていくのだ。
「スポーツマンのドラマ」を描く、『SLAM DUNK』を経て『リアル』で志向してきた井上雄彦の作家性が、今この時代に再び『SLAM DUNK』へと回帰した。何もかもが奇跡のような作品であり、その意味で今年最大のダークホースとなりました。
第1位 ベルファスト

ぶっちゃけ今年前半に観た映画の記憶がほぼ抜け落ちている状況でこの記事を書いてるんですが、それでもこの作品だけは強く印象に残っており、ベストワンとして相応しいように思えました。
モノクロの終始美しい映像で描かれた、幼年期の淡い記憶。住民たちが仲良く声を掛け合う温かな風景が、北アイルランド紛争によって徐々に形を変え、時代のうねりと共に居場所が失われていく。
淡い初恋、家族との日々。失われた故郷へのノスタルジーに溢れた映像が鮮烈であればあるほど、それでも生まれ育った街を捨てなければならない苦しみの切実さが真に迫っていく。しかし本作における人間模様はあくまでユーモラスな筆致で描かれており、主人公バディの視点から見える世界は徐々に過激化していく暴動の中にあってさえも、どこか明るく輝いてさえ映る。人と人が暮らす街、その営みの中で生まれる愛おしさが、最後の最後まで溢れているかのような映画で、だからこそそこを離れなければならないのだと、離れない選択をした大人の力強い愛の眼差しで以って終わる。ジュディ・デンチのあの表情が半年以上経った今でも忘れ難く、瞼の裏に焼き付いています。
いかがでしたでしょうか?
ラストシーンの印象が今でも色濃い『コーダ あいのうた』が入らなかったり、前後編だったり章編仕立てであるが故に『RE:cycle of the PENGUINDRUM』や『Gのレコンギスタ』シリーズを最初から選外にしたり、ランキング外でも良い映画がありながら紹介できなかったのが心残りです。
一方で、大作シリーズであるジュラシック・ワールドが無様なラストを迎えたり、傑作『天気の子』の次作ということで期待していた新海誠の新作『すずめの戸締まり』がどうにも釈然としない出来だったり、映画単体としては良いと思う所が多々有りつつもシリーズ全体への興味が完全に薄れてしまったMCUシリーズなど、なんだかなーと思う映画体験も少なからずありました。
良いなと思う映画もそうじゃない映画もあってこその趣味ですが、だからこそ、そもそも睡魔に耐えきれない、という自体が増えてしまっていることは何とかしたいと思ってます。さすがに途中で寝てしまったら語る資格はないですからね。やっぱ体力作りか?
来年も良い映画に出会えますよう。
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